静かだ、こんなにも静かなものなのだろうか。

月の館の中央部より上、外を見渡せるテラスに彼はいた。
空を見渡し―時折瞼を閉じたりしながら―ゴルベーザはそこにいた。
空と言ってもここは宇宙空間。
空気は試練の山の頂上より冷たく薄い。
切り裂くような空気の中、館の周りを取り巻くようにかろうじで光が浮かんでいるものの
漆黒よりもなお黒い空が、まるで今にも落ちてきそうなように感じられる。

彼は今の今までここにいた訳ではない。
彼はこの館の地下中央、月の地下渓谷で己の敵
そしてそもそもの原因であり憎悪の対象であったゼムスと対峙していたのだ。


「ゼムロス!」

ゼムスは倒す事が出来た。
しかし奴は姿を変え人の心に潜みし悪の力を手に入れ
私やフースーヤ、セシル、彼の仲間を圧倒した。

まさに終わりのときが来たのだ。
しかし。

人というものは、人の心というものは
それほど柔なものではなかった。
クリスタルのかけら。
それ即ち聖なる人の心。
我が弟が、青き星の民達が力を合わせ奇跡を起こしたのだ。


「私が今ここに在しているのも全ては彼らの力、か」
一人そうごちてまた空という名の空間を眺めた。



時は過ぎる。
ゴルベーザは今までの過ちを償うべく月に生きる者達の先導を フースーヤと共に担う事になった。
そして我々月の民は今この場で生きていくのは望ましくないとの結論が出た。
青き星から離れ我らは我らだけで生きねばなるまいと。
そしてこの無限の空の中で生きる場所を探さねばならぬと。

別れの時は来た――。

彼はまたテラスにいた。
ここからなら月全体を見渡せるような気がした。
そして青き星を眺める事が出来た。
「どうしたゴルベーザ」
「フースーヤか。
考え事をしていた」
「こんなところでか」
「ああ。ここならよく見える」
ゴルベーザはまっすぐに青き星を見つめた。
「何も。私は何もしてやることが出来なかった。
最後の最後までよい兄ではなかった。」
彼は苦笑する。
「そんなことはない。
 奴もちゃんと分かっておろう。お前の気持ちを」
「そうだろうか」
「そうじゃ。それにの。
想いというのは離れていても伝わるものじゃ」
「離れていても伝わる――」
フースーヤは優しく笑った。
「ここは寒いのう。歳には堪えるわい」
彼もそれにつられて優しく笑う。
「出発じゃぞ」
「ああ」
フースーヤは館の中へ入っていった。


もし離れていても想いが伝わるのなら、私の想いも伝わるのだろうか。

セシル



「     」











「!?」
「どうかしたの?セシル」
「………いや。何でもない
先に行っていてくれ。」
「分かったわ。でもあまり遅くならないでね」
「ああ」

確かに聞こえた。兄さんの声が。

兄さん





………とう。





息がもれる。
確かに聞こえた。セシルの声が。
こんなにも離れているのに。

屋敷の中へ入るとフースーヤが出迎えてくれた。
「どうしたんじゃ?」
また同じ問いかけを説いてくれる。
彼が先ほどとは違い穏やかな表情を浮かべているのに気付いてのことだった。
「本当に…離れていても伝わるのだな」
彼はそれだけ言うと機嫌よく祖父を呼び寄せた。

行こう、新しい地へ。



きみのこえ、もっとそばで

ゴルベーザが弟との別れの時に残した言葉。
それは悲しみの意ではなく、新たな旅立ちの言葉。
彼ならきっとやり直せる。
なんたって兄様ですから。
2007.9.9

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